ネコ目の動物福祉の問題、あるライフスタイルに関与

Royal Soc.

(60秒でいうと)

・科学誌「Royal Society Open Science」に、「The welfare problems of wide-ranging Carnivora reflect naturally itinerant lifestyles」というタイトルの研究発表が掲載された。

【背景】

・野生動物にとって飼育下という環境は進化上新たな環境であり、ある種では容易に適応するが、ある種では健康、繁殖、行動上の問題などのストレスに起因する症状で反応がみられる

・本研究では複数の種から記録されたデータを利用して、系統学的な比較手法によって、一部の種が飼育環境でも生き生きと適応している一方で、他の種ではリスクとなっている自然行動生物学的な側面を特定することを目的としている

【方法】

・本研究では、特に食肉目(ネコ目)に焦点を当てて調査を行った

・3つの福祉におけるリスク因子(縄張り意識が強い、広範囲を行動する、捕食に依存している)を、2つのストレス感受性が高く管理に関連する反応変数である「常同行動」と「幼獣の死亡率増加」を用いて調査した。※常同行動は福祉が低いことを示し、幼獣の死亡率増加については母獣のストレスを示す。

・常同行動のデータについては、27 種にわたり、常同歩行追跡456個体のデータを用いた 

・幼獣死亡率の増加(生後 366 日未満で死亡した出生数の値)は、 42 種にわたる 13,518 件の出生データを用いた

【結果】

・縄張り意識や捕食よりも、野生での行動範囲が広範囲に及ぶ種の個体が、常同歩行にかなり多くの時間を費やしていることが確認された

・1日あたりおよび年間の移動距離と、幼獣の死亡率について相関関係が確認された

【考察】

・現代の動物園や水族館であっても食肉目(ネコ目)が飼育下でどのように反応するかについては種間でかなりの差異があることを確認され、常同行動がほとんど見られず飼育下の幼獣死亡率が低いものもいる(例:キタキツネ、ホッキョクギツネ、アメリカクロクマ)、しかし、他の種では常同歩行に何時間も費やしており、病気や飢餓、捕食から守られているにもかかわらず、幼獣の生存率が低い場合もある

・常同歩行については、飼育下の肉食動物において移動したいという欲求が実現できなかったことを表している可能性があるため、どこを利用するかも含めて、より多くの主体性を与えること(例:展示内の複数の場所の間で選択を可能にする)によって改善される可能性がある

・今回の知見は、飼育下の食肉目(ネコ目)における福祉の問題の進化的基盤についての理解を促進させ、年間の広い移動範囲よりも、自然に移動するライフスタイルをもつことが最大のリスク因子であることを示した

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